さよならの魔法



同窓会のハガキを手にして、真っ先に思い出したのは天宮のことだったんだ。



どうしてだろう。

自分でも、その理由が分からない。


話したことだって、きっと数えるくらいしかない。

仲が良かったということもなく、席が隣になったことさえない。


共通の友達だって、俺と天宮の間には存在しないのに。



それなのに、1番最初に思い出したのは天宮。

当時付き合っていた女の子ではなく、関わりが誰よりも少なかったはずのクラスメイトの1人で。


込み上げる懐かしさを隠しきれず、ふと笑みを浮かべていた。




(懐かしいな………。)


卒業してから、もう5年になる。

中学生だった俺も、今では20歳。


高校に入学して。

必死に勉強して、何とか卒業して。


今では人並みに、大学にも通っている。

5年前の俺は、こんな未来を想像してはいなかっただろう。



あの頃は、自分のことだけで精一杯だった。

周りのことを見ている余裕まで、俺にはなかったのだ。


自分のことだけで精一杯なのは、今でも大して変わらないけれど。

確実に言えることは、あの頃の俺は、今よりももっと視野が狭い人間であったということ。



周りの人を思いやる余裕がなくて。

だからこそ、周りの人を傷付けて。


傷付けていくことに耐えきれなくて、怯えて。

何も出来ない自分のことが嫌いだった。





ハガキを返してみれば、差出人のところには久しぶりに見る名前が記されている。


西脇 友実。


3年の時のクラス委員だ。

優等生であるのに、孤立することなく、みんなと打ち解けていける様な女の子だった気がする。



押し寄せる。


記憶の波が。

あの頃の、懐かしい記憶が。










「なー、紺野ー!」


そう言って、いつも俺のところに来ていた矢田。


中学に進学して、それまでとは新しくなった環境。

見知らぬ人達の中で馴染めたのは、コイツがバカみたいに隣で笑っていてくれたから。



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