さよならの魔法



紺野くんと同じクラスになれた。

1年生の時の様に、同じクラスになることが出来た。


これで、3年間一緒にいられる。

来年も、紺野くんと同じクラスでいられるのだ。



しかし、幸せと紙一重のものがある。


それは、不幸。

幸せが訪れた分だけ、不幸せなことも私にやってくるなんて。



世の中って、上手く出来てる。


幸せなだけなんて、許されない。

すぐに不幸のどん底に落とされる。


それは、運命とも言えるべきことだったのだろうか。









「え………?」


ふとした拍子に見えた、ある人の名前。

私の名前のすぐ下にあった、知っている人の名前。


磯崎 紗由里【イソザキ サユリ】。


忘れるはずがない。

覚えていないはずがない。



この名前を忘れた瞬間なんて、1度もなかった。


よぎるのは、ランドセルを背負った自分。

俯いて、泣くのを我慢するしか出来ない自分。



何も言い返せなくて、言葉を飲み込んだ。

言いたいことを1つも言えなくて、家に帰ってからしか泣けなかった。


悲しくて。

悔しくて。

虚しいだけの記憶。



ガクンと、膝が不自然に音を立てて、折れ曲がる。


同じクラスの名簿。

私の名前のすぐ下に、あの子の名前を見つけてしまった。


忘れられないあの子の名前を、確認してしまった。

それだけで、体から力がスッと抜けていく。



何ということはない、いつもならば耐えられる人の波。

ほんの少し押されただけなのに、私の体は容易く崩れ落ちる。


砂で作ったお城みたいに、脆い幸せが崩れ落ちる。




痛い。

痛い。


心臓が痛い。



聞こえる。

どこかから、またあの子の声が聞こえるの。


私を苦しめる、残酷な声が。



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