さよならの魔法



ニコニコと笑うその人は、誰よりも忙しそうに店内を歩き回る。



眼鏡をかけた顔に見覚えがあるのは、ここがクラスメイトの家だからだろう。



(あれ、多分、松島のお母さんだ。)


駅前の居酒屋。

ここ、まつしまは、中学時代のクラスメイトである松島の実家だ。


西脇がここを会場に選んだのは、クラスメイトの実家でもあるからなのだろう。



松島とは、2年間同じクラスだった。

1年の時は別のクラスだったけれど、2年に進級する時に同じクラスになったのだ。


決して仲が良かった訳ではなく、そうかと言って、仲が悪かった訳でもない。

矢田みたいに親しくはなかった、まあ、そこそこ普通の仲のクラスメイト。



あっちがどう思っていたか、俺には分からない。

おそらく、似た様な感覚であったとは思うけれど。


ただ、俺は正直に言うと、松島のことがあまり好きではなかった。




松島は、転校した磯崎と仲が良かった男子の1人。

あのいじめに関わっていた、中心人物の1人なのだ。


バカな磯崎が思い上がって、遊びというには陰湿過ぎる行為を繰り返していた、2年の頃。


松島は、その輪の中にいた。

申し訳なさそうな顔さえせずに、平然と磯崎達の輪の中に加わっていたのだ。



同じクラスの男子は、ほとんどが遠巻きに見ているだけだった様に思う。

関わることを面倒だと感じて、離れた場所から見ていたヤツばかりだった。


遠巻きに見ていただけというのは、俺にも当てはまることだが。




だけど、松島は違った。


ヤツは、積極的に仲間に入っていた。

磯崎達とともに、天宮を追い詰めることを楽しんでいた。



山に囲まれた、小さな田舎町だ。


面白いことなんて、そうそう起きやしない。

テレビで報道される様な大きな事件だって、この町は無関係だ。



きっと、退屈だったのだ。


磯崎も。

松島も。


退屈しのぎになるのなら、何でも良かった。

理由なんて、どうでも良かったのだろう。


ヤツらにとっては。



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