さよならの魔法



進んでいく勉強。

1年の時よりも、ちょっと難しい。


教室の席順は、出席番号順。

男女別に、交互に列を並べている。



俺の席は、廊下側の1番後ろ。

居眠りをするには、絶好の位置。


隣の列の1番前の席は、天宮。


女子の中で、出席番号順だと真っ先に呼ばれる彼女は、その順番通りに1番前の席に座らされている。



2つに結んだ長い髪が、少し離れた俺の席から見える。

顔までは見えないから、彼女の表情が分からない。


だからなのか。

大人しい天宮のわずかな変化に気付くのに、時間がかかってしまったのは。








2年に進級して、1ヶ月。

5月に入れば、春の陽気も夏の色を滲ませたものへと次第に変わっていく。


ふと、目を向けた先。

天宮の席。



何か用があって、そっちを見た訳じゃない。


ただ、何となくだった。

天宮の方を見たのは。


そして、見てしまったのだ。




取り囲む様にして、天宮の席に群がる女子。


まず感じたのは、違和感。

彼女の周りを流れる空気が、いつもとは明らかに違うこと。



(何だよ、あれ………。)


天宮とは1年の時も同じクラスだったから、それなりに天宮のことは知っているつもりだ。


詳しい人となりは分からなくても、天宮がどんな行動を取る人間なのかは少し分かる。

ずっと見ていた訳ではないから、少しだけだが。



いつも、教室の端にいて。

大人しくて、人とあまり話をするタイプではなくて。


1人で、本を読んでいた天宮。

嬉しそうに、穏やかな顔でページをめくっていた天宮。


そんな彼女が、今、数人の女子に囲まれている。



どう見ても、仲が良さそうには見えない。

楽しそうに会話を交わしている、という感じには見えないのだ。



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