さよならの魔法
『衝動』
side・ユウキ







気が付いたら、追っていた。

走り出していた。


あの子の後ろ姿を追って。



話したかった。

謝りたかった。


ずっと、見て見ぬフリをしてきたこと。

手を差し伸べられなかったこと。



伝えないままで卒業してしまった。

俺は、まだ言っていない。


あの日のチョコレートのお礼を。



伝えたかった言葉がある。

言いたかったことがある。


きっと、俺はずっと伝えたかった。

言いたかったんだ。










天宮の姿が店から消えたことに気が付いたのは、どれくらい時間が経ってからだったのか。


天宮がいない。

さっきまでそこにいたのに、天宮の姿はもうそこにはない。


そのことに、俺はどれほど衝撃を受けただろう。



「………!」


思わず立ち上がる。

周囲を見渡して、落胆する。


天宮がいた場所には松島だけが残り、まるでそこには始めから誰もいなかったかの様だった。



天宮なんていない。

あの子は、最初から来ていたかったんだ。


何も知らなかったら、そう思ってしまうことだろう。



周りのみんなは出来上がってる連中ばかりで、2次会はどこに行くのかという相談まで始まっている。


始まってから、それなりの時間は過ぎている。

もうそろそろ、この集まりも終わりを迎えるということか。



しかし、その中にあの子の姿はない。

その輪の中に、天宮はいない。


思えば、ここに来てくれただけでも奇跡みたいなものだった。

俺からしてみれば。


天宮の精神的に受けた苦痛を考えれば、2次会にまで出たくないというのが本音だろう。

最後まで顔を出さず、1次会だけで帰ったのだ。



(天宮………。)


俺は虚ろな目で、天宮が座っていた場所を見つめた。


誰もいなくなってしまった、その場所を。

ポカンと空いてしまった、1人分の座席を。



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