さよならの魔法



そこにいたんだ。

確かに、そこにいたはずなんだ。


俺が座る席から遠く離れたそこで、笑っていたはずなんだよ。





そこからは、衝動だった。

我慢なんて出来なかった。


他人の目よりも何よりも、感情が俺を支配していた。



「おーい、紺野!まだ、酒残ってんぞ?」

「ちょっ、お前、どこに行くんだよ!これから2次会あるの、分かってんだろ!?」


素早くダウンを着込み、スニーカーに足を通す。

慌てて身支度を整え始めた俺に、周りの酔っ払いがにわかに騒ぎ出す。


その言葉に、耳を貸すつもりなどなかった。



本当は、2次会まで参加するつもりだった。

最後まで残って、みんなと語り合うつもりでいた。


だけど、今は、そんなことを言っている余裕はない。

なくなってしまったのだ。



だって、そうだろ。

考えてみろよ。


天宮は、この町に住んでいる訳じゃない。

卒業式の後、この町を出ていったのだから。


20歳になった今、どこに住んでいるのか。

俺は、何も知らないんだ。



連絡先なんて、知らない。

携帯電話の番号を交換するほど、俺と天宮には関わりというものがなかったのだ。


今、住んでいる場所だって知らない。



そんな彼女と、これからも会える可能性なんてあるのか。

次に会える保障なんて、ない。


それが現実だ。



次にこういう機会があっても、天宮は顔を出さないかもしれない。

俺が2度目の同窓会に行っても、天宮は来ないかもしれない。


今日が最後で、もう会えなくなることだって考えられるのだ。



もし、そうなってしまったら、俺は絶対に後悔する。

今まで以上に、俺はそのことを悔やむのだろう。


中学時代の俺がそうであった様に、俺は囚われ続ける。




あんなに悔やむくらいなら。

あんなに悩むくらいなら。


俺はーーー………


俺は行動する。

今度こそ、あの子の手を掴む。



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