さよならの魔法
だけど、伝えたかった。
どうしても、俺は天宮に伝えたかった。
俺の口から。
俺自身の言葉で。
「ずっと、お礼を言いたかったんだ。言えないまま、卒業しちゃったから。…………ありがとう、天宮。」
空高くブランコを上げて、チラリと天宮の顔を覗き見た。
「………。」
俯いている天宮の顔は、ブランコの上にいる俺からはよく見えない。
天宮は、今、どんな気持ちでいるのだろうか。
どんな表情で、どんな思いで、俺の言葉を聞いてくれているのだろうか。
分からない。
分からないんだ。
不安ばかりが、俺の中で膨らむ。
ムクムクと入道雲の様に膨らんで、不安という名の暗い感情は俺を覆い尽くそうとしていく。
目の前にいる彼女の反応が、こんなにも気になって仕方がない。
ああ、人を好きになるって、こういうことなんだ。
恋をするって、こういうことなんだ。
ガラにもなくドキドキなんかして、小さなことに舞い上がって。
すぐ不安になって、生まれた不安に押し潰されそうになって。
感情が振り回される。
上がったり下がったりで忙しないけれど、気持ちを抑えることも出来やしない。
コントロールなんて、出来ない。
好きだ。
好きなんだ。
天宮のことが好きなんだ。
5年前の、セーラー服を着ていた彼女も。
今の、大人になった彼女も。
教室の端で、本を読んでいた女の子のことも。
俺の隣で、ブランコを揺らしている女の子のことも。
泣いていた天宮も、笑顔の天宮も、全部好きなんだ。
同情だけじゃなかったよ。
そこには、別の感情があった。
俺は、天宮のことが好きだった。
そして、今もまた、天宮のことが好きなんだ。
喉までせり上がった、好きという言葉。
その言葉を口に出す前に、俺よりも先に天宮がブランコを降りる。
その様は、舞い散る花びらの様で。