さよならの魔法
『始まりの日』
side・ハル







私はずっと、縛られて生きてきた。



産んでくれた母親から愛されないという、どうしようもないジレンマ。

大人しいというだけで、意味もなくいじめられ続けてきた過去。

最後まで叶うことのなかった、切ない片想い。


忌まわしい過去は見えない鎖となって、大人になった今もなお、私のことを縛っていた。



鎖を断ち切れたのは、周りにいてくれた人の優しさに支えられてのこと。


千夏ちゃん。

千佳ちゃん。

お父さん。


私は、1人なんかじゃなかった。

私はずっと、みんなに支えられていたんだ。



もう大丈夫だよ。


過去に囚われたりなんかしない。

見えない鎖に縛られたりなんかしない。


私は1人なんかじゃないって、みんなが私に教えてくれたんだよ。



人は、弱い生き物だ。


強がっていても、1人では生きていけない。

周りに支えられて生きてきたことを、決して忘れてはいけない。




昔を思い出すこともある。


過去は消せない。

やり直せない。


思い出したくなくても、どうしても思い出してしまう記憶がある。



だけど、私は立っていられる。

前を見て、歩いていける。


だって、1人じゃないから。

私の隣には、みんながいてくれるから。



悩むことがあったら、相談すればいい。


泣きたくなってしまったら、きっと一緒に泣いてくれるはず。

楽しい時は、きっと一緒に笑ってくれるはず。



そんな人達が周りにいてくれることを、私は誇りに思っている。










2年後。


美大に進んだ私は、無事に大学を卒業することが出来た。

大好きな絵に真剣に打ち込んだ4年間は、私の人生の中でかけがえのない時間となった。



充実した大学生活を送れたのは、間違いなくお父さんのお陰だ。


それほど裕福ではない暮らしの中で、私が卒業するまで大学に通わせてくれた。



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