さよならの魔法



もう一方は、大人になってから会ったあの子。

ミニスカートを穿いて、足を強調する様に長いブーツを履いていた。


茶色く染められた髪に、パッチリした目がよく分かるメイク。

20歳にしては、大人びた容姿。



俯いていた顔には、あんな瞳が隠されていたのかと驚いた人も多かったことだろう。

変わってしまった天宮に引き付けられ、近寄る男も少なくなかった。


そこに、あの頃の天宮はいなかった。

俯いていたセーラー服を着た少女は消え、現れたのは今時の若い女の子。



俺だって、あの場にいた男どもと変わらない。


変わってしまった天宮に、ドキッとした。

綺麗になって、目の前に現れた天宮に。



だけど、同時に気付いたのは、心の奥底に眠っていた自分の気持ち。


同窓会のあの日。

再会することがなかったら、出会うことがなかったら、気付かずにいたかもしれない。


中学生だった頃の、自分の気持ち。



ズキンと、刺す様な痛みが走る。

心臓のど真ん中を、鋭く刺す痛み。



「………っ!」


痛い。

胸が痛い。


張り裂けて、壊れて、粉々になりそうだ。



見下ろしても、胸には刃物なんて刺さってはいない。

刃物どころか、いつも通りのグレーのスーツがそこにあるだけ。


走る痛みに耐えかねて、胸の辺りをギュッと掴む。




思い出したくない。

天宮のことを思い出したくない。


そう思う様になったのは、いつからだったのだろう。



心が拒否しているのだ。


傷付くことを。

現実を思い知って、落ちていくことを。



思い出したくないと思ってしまうのは、今も胸の中に眠る感情があるから。

消えない炎みたいに燻って、ジリジリと焦がしていくかの様な想いが存在しているから。


だから、俺は思い出したくなかった。

思い出そうとすることを止めていた。




会いたい。

天宮に会いたい。


でも、会えない。

俺は、天宮には会えない。



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