さよならの魔法



どこにいるかも分からない。


生きているのか。

元気でいるのかどうかさえ、知る術がない。


居場所が分からないあの子を、俺は未だに心のどこかで探し続けている。



就職先を東京で選んだのだって、理由は邪なものからだった。


もしかしたら、会えるかもしれない。

東京に行けば、どこかで天宮にすれ違うかもしれない。


そんな思いがあったから、俺は東京で生きていくことを決めたのだ。

大学がある街で就職先を決めることだって出来たのに、わざとこの大きな街で就職先を見つけた。



ちゃんと考えれば、分かること。


それが、俺には分からなかった。

いや、分かっていたのに、考えようとしなかった。



彼女が、天宮がまだ東京に住んでいるとは限らない。

そもそも、東京に住んでいたかさえ、定かではないんだ。


佐藤先生がそう言っていたけれど、本当に天宮がこの大きな街のどこかにいた確証はない。



仮に住んでいたとしても、会えるだろうか。

このたくさんの人が蠢く都会の街で、運よく再び出会うことが出来るのだろうか。


俺と天宮が。



可能性は0じゃない。

しかし、限りなく0に近い。


だけど、俺はその可能性に懸けてみたかった。

俺と天宮が出会える運命に、懸けてみたかった。


その結果が、これだ。



仕事も上手くいかなくて、行き詰まっている。

上司からも目を付けられて、怒鳴り付けられる毎日。


唯一の希望だった天宮にさえ、会えないまま。

会いたかった天宮を見つけられないまま。




空に向けていた視線を、地上へと戻す。

そこにあるのは、先ほどまでと何ら変わらない景色。


行き交う人々が、ベンチに座り込んだ俺の目の前を無表情で通り過ぎていく。


他人に、関心なんてないのだろう。

誰1人として足を止めず、足早に広場から立ち去っていく。



違う。

ここは違うんだな。


俺が育った、あの小さな町じゃない。



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