さよならの魔法
俺と天宮が過ごした、あの思い出深い町じゃないんだな。
うざいくらいに関わられて、煙たくなることもあった。
だけど、温かかった。
あの小さな町の人は、どこか温かった気がする。
その違いに虚しさを感じていた、その時だった。
「ん?」
視界の端に、あるものが映った。
通り過ぎていく人達が目を向けない、あるものが。
時間に追われていたら、気が付かないであろうもの。
それは、絵。
壁に描かれた、1枚の大きな絵。
駅前の広場のすぐ傍にある、商店街の入り口。
その入り口には壁があり、そこに絵が描かれていることに気付いたのだ。
隣接した商店街の入り口にある絵。
その絵に、俺の目は釘付けになった。
「空………?」
あれは、空だろうか。
透明なブルー。
澄んだ青の先にある、白。
風景画なのだろうか。
空らしき絵が描かれた壁を、遠くからじっと見つめる。
それは、不思議な絵だった。
見ていると、心が凪いでいく。
あれほど落ちていた気持ちが、フワリと優しく浮き上がる。
ささくれ立った心が、癒えていく。
懐かしい。
そんな感覚を呼び起こす絵。
見たことがないのに懐かしいだなんて、おかしいな。
(どうして、懐かしい………なんて思うんだろう?)
どこかで見たことがある気がする。
初めて見る絵であるはずなのに、見たことがある。
大体、俺は絵には詳しくない。
壁画なんて、まともに見たことがない。
それなのに、俺はこの絵を知っているんだ。
そんな気がしてしまうのだ。
どうしてーーー………
そこまで考えて、ようやく分かった。
俺が、この絵を知っている理由。
懐かしいと、そう感じてしまった理由が。
見たことがあるのではない。
そもそも、見たことがないはずの絵を見ている訳がないんだ。
俺は、こんな風に絵を描く人を知っているだけ。