さよならの魔法
怒られても、こればかりはしょうがない。
好きなものは好き。
怒られたからといって、趣向まで変えられるものでもない。
それは今でも続いていて、私はよくこうやって本を読みにこの場所へと通っている。
手に取ったのは、恋愛小説。
ジャンルは何でも気にせずに読むけれど、今日はこれと決めていたのは恋愛を描いたものだったのだ。
手に取った小説とともに向かうのは、近くにある読書スペース。
パラパラと、音も立てずにページをめくる。
ほんのり薄茶色に染まったページが、私を現実の世界から引き離してくれる。
虚しいだけの現実から。
悲しいことだらけの、この世界から。
誰もいない静寂の空間で、私は1人、小説の中の世界へと潜り込んでいくんだ。
目を閉じれば、広がるのは小説の中に描かれた世界。
主人公は、私と同じくらいの年の女の子。
制服を着て、私と同じ様に学校に通って。
ずっとずっと好きだった、幼なじみの男の子が彼女にはいた。
密かに、想いを寄せている男の子が。
初めての恋。
しかし、その恋は呆気なく散ってしまう。
幼なじみの男の子は、別の女の子に惹かれていく。
彼女ではない女の子に、好意を抱いていく。
女の子の願いは届かない。
ずっと抱いていた想いは、届くこともなく。
重なる。
主人公の女の子と自分の姿が、何故か重なる。
違うのに。
私は、紺野くんの幼なじみなんかじゃない。
ただのクラスメイトだ。
同じなのは、初めての恋をしたということだけ。
それなのに、リンクしていく。
本の中の少女と、今の私の心が重なって溶けていく。
もうどっちがどっちなのか、分からないほどに。