さよならの魔法



好きだから。

とても大好きな人だから。


私は、紺野くんを忘れられない。

ほんの一瞬でも、忘れることなんて出来ない。


紺野くんの幻から、離れられないでいる。



「はぁ………。」


零れ落ちた溜め息は、限りなく重い。

深く深く沈んでいって、心までもともに沈み込ませていく。



最低だ。

私、最低だ。


好きな人の幸せを願えない。

紺野くんの幸せを、私は願えない。



好きなのに。

紺野くんのことが大好きなのに。


紺野くんに訪れた幸せを、私は心から喜んであげられない。



自分のことしか、考えてないんだ。

自分の気持ちしか、見えていないんだ。


紺野くんの幸せよりも、自分の想いに囚われてしまっている。



(………紺野くん。)


好きだよ。

紺野くんのことが好きだよ。


増渕さんみたいに、そう言いたかった。

言えたら、こんなに苦しまなかった。



フラれるのが怖かったのかな。

それとも、紺野くんの反応を見るのが怖かったのかな。


きっと、両方だ。



好きです。

そう言って、困る紺野くんを見るのが嫌だったんだ。


私なんかの言葉で、紺野くんを困らせたくなかったんだ。



「………。」


忘れたくて読み漁っていたはずなのに、気分は一向に晴れていかない。

それどころか、地に落ちていく一方だ。


そんな時だった。

誰かに、声をかけられたのは。









「あれ、天宮さん………?」


天宮さんと、そう私のことを呼ぶ声に顔を上げる。

滲んでいた涙をサッと拭い、必死に奥へと隠す。


そこにいたのは、1人の少女。



2つに結んだ、三つ編み。

パーマがかかったみたいに、フワフワと柔らかそうな前髪が揺れる。


優しげな目元を隠す、分厚いレンズの眼鏡。

眼鏡の奥の瞳が、ふんわりと微笑む。



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