さよならの魔法
淡い水色のワンピースが、何とも可愛らしい。
女の子らしいと言うべきか。
Tシャツに、ボーイッシュなジーンズを穿いただけの私とは大違いだ。
セーラー服を脱ぎ捨てているけれど、分かる。
見覚えのあるその子は、私のクラスメイト。
まだ1度も話したことのない、同じクラスの女の子だった。
「は、橋野………さん?」
名前は間違えていないはず。
自信なさげに吐き出された、弱々しい言葉。
私の言葉に、橋野さんが控え目に笑う。
その笑顔は、紺野くんの笑顔とは全く別の色。
深いオレンジ。
日が暮れる前の鮮やかなオレンジが、闇の色に感化されて暗くなっていく時の色に似ていて。
どことなく暗い、落ち着いた色合いの笑顔。
彼女の名前は、橋野 祥子【ハシノ ショウコ】。
彼女とは、今年、初めて同じクラスになった訳ではない。
実は去年も、橋野さんと同じクラスに在籍していたのだ。
いつも教室の端にいて、黙々と勉強をしている女の子。
クラスメイトと仲良く話している様な記憶はない。
隅で、1人でいた気がする。
地味で、目立たなくて。
大人しくて、人と関わらなくて。
そう、私と似ている。
私みたいな、そんな女の子。
話したことはない。
しかし、勝手に親近感を覚えていたのだ。
小学校が同じだった磯崎さんなんかよりも、彼女の方が親近感が湧いてしまっている事実。
自分と似た、何かを持っている気がして。
分かり合える、そんな何かを持っている気がして。
1度、話してみたいと思っていた。
言葉を交わしてみたいとは思っていた。
話しかける勇気のない私は、結局、その機会を見出だせないままだったけれど。
初めての言葉は、いつも緊張してしまう。
躊躇ってしまって、言葉が上手く出てこない。