放課後ラプソディ
「あるんだよそういうの。ネットで見たんだよね。人形みたいに無抵抗なのが好きっていう」
 そう言いながら、六坂は眼を閉じて体を反らし、いすの背もたれに背中を乗せた。六坂なりに再現しているらしい。

「それ、なにがいいの?」

 内心、引いたんですけど。聞きたくもない。霧恵、いいよ、この話広げなくて。

「いや、俺そういうの好きじゃないし、わかんないよ。ただ見ただけだよ、画像があって」

 なんの話をしてるんだよ、六坂。

 ごめんね、星野さん。わかるよ、だって表情が戸惑い気味だもん。

――

 さっきまで『白雪姫』の話をしたけど、こんな風にちゃんとクラスの人と話すのってはじめてかもしれない。
引っ込み思案は継続したままで、わたしは性格を変えられなかった。

 高校デビューっていうのをしてみたかった。中学が同じだった人は、ここにはいない。やろうと思えばできたはずだ。できた人がうらやましい。いままでの人間関係がリセットされたのだから、すればよかったのに、不安のほうが駆ってしまい、結局、本に逃げた。

 わたしがこの高校に入ったのは、レベルの高いところより、コミュニケーション能力をどうにかしたいと思ったから。

 行こうと思えば、ここより上の高校だって狙えただろう。実際、中学の担任にも、母親にも、それとなく言われた。

 ときどき、よくわからない、正体不明の疲れに襲われるのはなぜだろう。精神的な疲れ、なのかな。

 帰り道、さっきまで楽しかったのに、駅の近くでふと目に入った、ホームレスの中年男性が「ビッグイシュー」をかかげて売っているのが気になった。がんばっているけど、なかなかその人の前で通行人は立ち止まらない。何人も何人も通り過ぎていった。

 もし、落ちるときはひとりで落ちろよな。

 わたしにはそんな、聞こえないはずの世間の声が聞こえる。
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