ひまわりの涙
私の半分ほどの大きなクマのぬいぐるみを抱きながら部屋を出た。

幸いなことに近所の人達には会わずにすんだことに胸をなで下ろす。

昨日のことを聞かれたくなかったし、好奇の目で見られるのもイヤだったから。

そのまま助手席に乗り込み、車の揺れに身を任せた。

クマのぬいぐるみ…

私がまだ5歳にもならないとき毎日一緒にいて一緒に寝た最愛の友達。

でもある時目が覚めると隣に寝てたクマのぬいぐるみがなかった。

その代わりそれから毎日私の側にいたのはピアノの先生…

毎日毎日私の手を指揮棒で叩く先生…

だから…このクマのぬいぐるみを見たときあの時の友達が帰ってきたんだと思ったんだ…

それを何故兄は…

ぼーっと考えてると車が止まった。

鏡を見て周りをみると私が働いていた職場前だった。

ちょうど出勤時間なのか見知った顔の人達がビルの中に消えていく。

窓ガラスにはスモークが貼ってあってこっちのことは見えない。

『きいたぁ~?あの神城鞠乃!神城コーポレーションの娘だったんだって!』

『つきあいが悪いと思ったらお高くとまって見下してたのよね!』

『俺くどいておけばよかったぜ。そしたら逆玉にのれてたかもな、ハハハハハ』

みんな…私は…そんな事思ってもいなかったのに…

自分でも血の気が引いてくのが分かった。

抱きしめてたクマのぬいぐるみに顔を埋めると車がいきなり走り出した。

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