最後に、恋人。




温泉に行く日。





由紀の顔色はすこぶる悪い。





『今日はキャンセルしよう』と言っても、『当日キャンセルなんて、キャンセル料100%なんだから、お金溝に捨てるようなモンじゃん』と聞く耳を持たない。





本当は電車で行く予定だったが、由紀に何かあった時にすぐに近くの病院に運べるようにレンタカーで行く事にした。





由紀は『電車で行く』と聞かなかったが力ずくで車に押し込んだ。





最初こそ機嫌を損ねていた由紀も、車の中から流れる風景を眺めながら風に当たると気持ちが良くなったのか、いつの間にか目を細めて微笑んでいた。





旅館に到着し、チェックインをして予約した部屋に通された。





仲居さんがお茶を入れながら由紀に尋ねた。





「貸切露天風呂の予約時間は午後6時より1時間となります。 お食事は午後7時半で間違いありませんか??」





「はい。 よろしくお願いします」





「かしこまりました。 ごゆっくりお寛ぎ下さいませ」






仲居さんはお茶をオレたちの前に置くと、お辞儀をして下がって行った。






「由紀、露天風呂予約したんだ」





「したけど、お風呂までついて来ないでね。 孝之は大浴場」





行かねぇっつーの。





・・・・・でも






「あんまり遅い様なら様子見に行くから」






だって、1人で倒れてたり溺れてたりしたらシャレにならん。






「はいはい」





由紀は必要以上に心配するオレが、若干うっとしい様だ。






でも、心配なモンは心配なんだからしょうがない。
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