・*不器用な2人*・(2)
淳君が飛び出して行ったのは、突然のことだった。

私が止める暇もなく、彼は持田君の腕を掴むと、城島君たちから引き剥がす。

「おまえ、何してるんだよ」

淳君が怒鳴る間に、持田君は彼を振りほどき、城島君へとまた近付いて行く。

「格闘ごっこ。
俺、レスラー志望だから」

面倒くさそうな表情でそう言うと、持田君は城島君の髪をもう1度掴み上げた。

城島君が悲鳴を上げると、間髪入れずに持田君のシューズが彼の顔面へと食い込んだ。

「なんかちょっと部内で揉めただけなんで。
そんな怖い顔しないで下さいよ」

慌てて駆け付けた私に向かいそう笑ったのは、城島君の上に乗ったままの赤坂君だった。

短いポニーテールを揺らし、女の子のように可愛く笑うと、彼は城島君の上からパッと降りた。

その際に彼の爪先は城島君の背中を踏んだ。

故意なのか過失なのか分からなかったものの、城島君がまた悲鳴を上げた。

小さく一礼をして去って行く赤坂君を見送り、持田君も立ち上がる。

「1分以内に館内入らないと、チェック表だから、早く来なよ」

明るい声でそう言うと、持田君も体育館へと入って行ってしまった。

残されたのは、私と淳君と城島君の3人だけになる。

「大丈夫……には見えないけれど、大丈夫?」

うつ伏せたままの状態になっていた城島君に声をかけると、すぐに「はい」と返事があった。

「赤坂の言うてた通り、ほんとただの喧嘩だから」

ゆっくりと起き上がった城島君は、その場に胡坐を組んで私たちを見上げる。

彼は顔に付いた泥を乱暴に拭ってから、いつも通りに笑顔を作った。

彼なりに安心させるつもりで言ってくれたはずなのに、淳君が不機嫌そうな表情を浮かべた。

「ただの喧嘩であんなことやるんだ。
さすが芳野が仕切ってる部活ってだけあって野蛮だね」

棘のあるその言葉に、私まで危うく傷付きそうになった。

――どうしてここで芳野君の名前を出しちゃうんだろう……。

少しだけムッとする私と反対に、城島君は笑顔のままだった。

「先輩は関係ないよ」

おっとりとそう言うと、城島君はゆっくりと俯く。

「芳野先輩は、皆が思ってるような人じゃないから、全然」

彼がそう言い、もう1度顔の泥を拭う頃、ジャランという金属音が背後から聞こえた。
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