・*不器用な2人*・(2)
「でもさ、城島陽人も出てたよ?」

めぐちゃんが体育館を指さすと、井方君は「そうですね」と真顔で答える。

「城島は1番報告が多いから、仕方無いと思います」

「報告って何?」

私が訊ねると、井方君は一瞬だけ「しまった……」という表情を浮かべたものの、すぐに口を開いた。

「顧問が部活を見に来るのは不定期なんです。
だから、顧問がいなかった時のことはすべて先輩たちが記録しているんです。
それで、城島は遅刻や途中退室、試合中の不注意とかそういう項目にチェックが毎度多いんです……」

「それって、公正なチェックなの?」

めぐちゃんが訊ねると、井方君は頷いた。

「記録係は1人だけじゃないので……。
個人的に嫌な奴にチェックを入れるなんてことはないと思います。
俺は記録表を直接見たことがないので分かりませんけど……」

井方君の言葉にめぐちゃんは大袈裟に顔をしかめた。

「君は、チェックされてああいう試合に出されたことあるの?」

多分、彼は答えを知っていたのだと思う。

だから敢えて、目の前に立っている人の良さそうな後輩にこんなことを訊ねたのだろう。

井方君は俯きながら「1年の頃に少しだけ……」と答えた。

「入部したての頃に、まだルールをあまり知らなくて、それで2回くらいは練習に出されていたんですけど、1年の5月以降は1度もありません」

めぐちゃんは「へー」と気のない相槌を打つと、一歩退いた。

「さすが、バスケ部の王子様だね」

揶揄するような言い方に、一瞬だけ井方君の表情が引きつったのが分かった。

それでも先輩相手には言い返せないのか、彼は不快を隠すように俯いた。

「そんなことないです……」

頼りないくらい小さな声で彼はそう呟いた。
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