・*不器用な2人*・(2)
床の色が変わった。

涼しい空気を吸い込んで、外へ出られたのだと分かった。

「ほら、あっという間だったっしょ」

敬語をすっかり忘れてしまった井方君は、私を見下ろして優しげな声でそう言うと、パッと手を離した。

「井方。おでこ、どしたの」

出口で座り込んで待っていた城島君が、座ったまま井方君に声をかける。

「なんかゴーンとやったらガーンってなった」

小学生のような返答をする井方君に城島君も「すげー」と幼い反応をする。

立ち上がった城島君は井方君の前髪を掻き上げると、赤くなった額を見て声を上げて笑い始めた。

「城島、お前もゴーンってやってガーンってなってたろ」

少し離れたところでケータイを弄っていた梶君がボソッと言うと、城島君が真顔に戻る。

「俺は肩ぶつけただけでこんな派手にやってないし!」

ムキになって反論しようとする城島君を、梶君と井方君が同時に拘束する。

「俺だって別に派手にぶつかったわけじゃない!」

「城島、お前さっきまで痛い痛いって喚いてただろうが!」
同時に怒鳴られ絞められた城島君は慌てたように梶君へタップサインをし、手を離された。

「井方がぶつからなきゃ風野がぶつかってたんだから仕方ないだろ」

梶君の言葉が少しだけ胸に刺さった。

――ぶつからないよ、さすがに……。

そう思いながらも、ずっと繋がれていた右手を自分自身で握る。

意外に堅くて、大きくて、それは頼りになる男の人の手だった。

父親に差し出されたことがない、母親にも当然のように差し出されたことのない、逞しい優しさだったと思う。

振り返ると、井方君と丁度目が合った。

彼はコソッと低い位置で私に手を振ると、目を細めて笑顔になった。

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