・*不器用な2人*・(2)
やかんが湧いたのを知らせるように控え目な音を立て始める頃、奥の方のカーテンが開き、城島君と井方君が2人で顔を覗かせた。
「2人はもう授業に戻りなさい。あっという間に勉強ついていけなくなるんだから」
保健医さんにそう言われ、彼らは不満げに顔を顰めた。
「浦和は良いの?あいつサボりじゃん」
井方君の言葉に保健医さんが「良いの」とキッパリと言う。
「浦和君は付き添いだから。墓屋君と一緒に教室に戻ってもらうの」
井方君はまた眉間に皺をよせて不満げに俯く。
その横に無難な笑顔で立っていた城島君は、私に気付くとパッと表情を明るくさせた。
「風野先輩、久しぶり!」
その場に直立したまま、彼は手をヒラヒラと振ってくれる。
私もソファに座ったまま手を小さく振り返した。
井方君も直ぐに此方へと視線を移し、小さく会釈をしてくれる。
どちらもスッと背が高く華のある顔だから、並んでいると余計に直視しにくくなる。
「井方君、後ろの髪跳ねてる」
私が言うと、井方君はゆっくり手を頭の後ろへと回し、髪を乱暴に撫でる。
「そこじゃなくって…」と言いながら城島君が井方君の髪をガシガシと撫でて、跳ねを無くす。
「芳野君は来てないんだね」
記録表を見ながら言うと、彼らは顔を見合せてニヤーっと笑った。
「大地は留年だからね」
「先生に1人だけ止められたんだよね」
自分たちが来年留年になるという危機感はまだないのか、2人は妙にうれしそうだった。
そもそもどうやって2年に進級できたのだろうと少しばかり疑問に思いながら、私は教室へ戻る彼らを見送った。
「風野さん、ああいう綺麗な顔の男の子は好き?」
2人が出て行ってから保健医さんに聞かれ、私は持っていたティーカップを落としそうになった。
慌てて持ち直してから、少しだけ考え込む。
「格好いいなとは思うんですけど、特別好みというわけではないので……」
無難な答えを捻りだした私に、保健医さんは「じゃあどういう子が好みなの」と意地の悪い質問をして来る。
記録表の名前に一気に目を通しながら、私は今度こそ真剣に考え込んでしまった。
生まれてから今まで、好きになったのは梶君だけであり、しかも彼のことは顔でなくお人柄で選んだ。
いざ顔の好みを聞かれるとパッとは思いつかないのだ。
「髪が明るくて、鼻がスッと高くて、目つきが鋭くて、神経質そうな顔立ちの人が良いです」
好きな芸能人の特徴を思いつく限り言ってみて、それが梶君や井方君たちとはあまりにもかけ離れているということに気付いた。
――どちらかと言うと木山兄弟の顔が好きなのかな。
ニコニコと指折りをしながら聞いていた保健医さんは、思いついたようにカーテンを指さした。
「この中で言うと墓屋君だね」
予想外の言葉に私が声を上げるとほぼ同時に、保健医さんが指さしたカーテンがゆっくりと開いた。
「何か言った?」
浦和君と同じ毛布を被ったままのいっ君が、顔を覗かせる。
スッと鼻が高く目つきが鋭く髪が明るいというか白く、とにかく表情が常にイライラしてる感じ……。
確かに格好良いかもしれないと内心思いつつも、ジロジロ見るのも失礼かと思い、私はすぐに視線を逸らした。
「墓屋君って格好良いよねーって話してただけ」
保健医さんの言葉に、私といっ君はほぼ同時に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「言ってない!そこまで私は言ってない!」
慌てて首をブンブンと振る私と、「格好良くない、そんな訳ない」と胸の前で手をパタパタと振るいっ君。
保健医さんは私たちを交互に見てまたひとしきり笑った。
「2人はもう授業に戻りなさい。あっという間に勉強ついていけなくなるんだから」
保健医さんにそう言われ、彼らは不満げに顔を顰めた。
「浦和は良いの?あいつサボりじゃん」
井方君の言葉に保健医さんが「良いの」とキッパリと言う。
「浦和君は付き添いだから。墓屋君と一緒に教室に戻ってもらうの」
井方君はまた眉間に皺をよせて不満げに俯く。
その横に無難な笑顔で立っていた城島君は、私に気付くとパッと表情を明るくさせた。
「風野先輩、久しぶり!」
その場に直立したまま、彼は手をヒラヒラと振ってくれる。
私もソファに座ったまま手を小さく振り返した。
井方君も直ぐに此方へと視線を移し、小さく会釈をしてくれる。
どちらもスッと背が高く華のある顔だから、並んでいると余計に直視しにくくなる。
「井方君、後ろの髪跳ねてる」
私が言うと、井方君はゆっくり手を頭の後ろへと回し、髪を乱暴に撫でる。
「そこじゃなくって…」と言いながら城島君が井方君の髪をガシガシと撫でて、跳ねを無くす。
「芳野君は来てないんだね」
記録表を見ながら言うと、彼らは顔を見合せてニヤーっと笑った。
「大地は留年だからね」
「先生に1人だけ止められたんだよね」
自分たちが来年留年になるという危機感はまだないのか、2人は妙にうれしそうだった。
そもそもどうやって2年に進級できたのだろうと少しばかり疑問に思いながら、私は教室へ戻る彼らを見送った。
「風野さん、ああいう綺麗な顔の男の子は好き?」
2人が出て行ってから保健医さんに聞かれ、私は持っていたティーカップを落としそうになった。
慌てて持ち直してから、少しだけ考え込む。
「格好いいなとは思うんですけど、特別好みというわけではないので……」
無難な答えを捻りだした私に、保健医さんは「じゃあどういう子が好みなの」と意地の悪い質問をして来る。
記録表の名前に一気に目を通しながら、私は今度こそ真剣に考え込んでしまった。
生まれてから今まで、好きになったのは梶君だけであり、しかも彼のことは顔でなくお人柄で選んだ。
いざ顔の好みを聞かれるとパッとは思いつかないのだ。
「髪が明るくて、鼻がスッと高くて、目つきが鋭くて、神経質そうな顔立ちの人が良いです」
好きな芸能人の特徴を思いつく限り言ってみて、それが梶君や井方君たちとはあまりにもかけ離れているということに気付いた。
――どちらかと言うと木山兄弟の顔が好きなのかな。
ニコニコと指折りをしながら聞いていた保健医さんは、思いついたようにカーテンを指さした。
「この中で言うと墓屋君だね」
予想外の言葉に私が声を上げるとほぼ同時に、保健医さんが指さしたカーテンがゆっくりと開いた。
「何か言った?」
浦和君と同じ毛布を被ったままのいっ君が、顔を覗かせる。
スッと鼻が高く目つきが鋭く髪が明るいというか白く、とにかく表情が常にイライラしてる感じ……。
確かに格好良いかもしれないと内心思いつつも、ジロジロ見るのも失礼かと思い、私はすぐに視線を逸らした。
「墓屋君って格好良いよねーって話してただけ」
保健医さんの言葉に、私といっ君はほぼ同時に素っ頓狂な声を上げてしまった。
「言ってない!そこまで私は言ってない!」
慌てて首をブンブンと振る私と、「格好良くない、そんな訳ない」と胸の前で手をパタパタと振るいっ君。
保健医さんは私たちを交互に見てまたひとしきり笑った。