・*不器用な2人*・(2)
「砂糖、3個だっけ、4個だっけ……」

保健医さんに振りかえられたいっ君は、前髪をガシガシと直しながら「5個です」と低い声で答える。

「相変わらず多いね」と笑いながら、保健医さんは角砂糖を大量にカップの中へと投下した。

――多いよ、多すぎるよ!ていうかこの人こんな顔で甘党なの!?

突っ込みを入れたかったものの、口にする勇気もなく、私は心の中で呟く。

砂糖が大量に入った紅茶を飲む間、いっ君はマスクを顎まで下していた。

先日見た通り、彼は顔面ピアスで、鼻にも口にも遠慮なく貴金属が食い込んでしまっていた。

「ピアス増えてるー。先生に怒られるよー」

保健医さんが茶々を入れても表情1つ動かさない。ただ、会話を面倒とは思っていないらしく、律儀にボソボソとだけれど返答はしていた。

「そう言えば、自販機の販売が中止になったって話、もう聞いた?」

保健医さんが思い出したように言うと、いっ君はパッとカップをテーブルに置いた。いえ…と低い声で言って、彼は眉間に皺を寄せる。

「墓屋君が入学する1年前。
風野さんが1年生だった頃にね、自販機のジュースに異物が混ぜられるっていう騒ぎがあったの。
その時も販売中止になったんだけど、ここ最近は全然そういうことがなかったから。
本当びっくりしちゃった」

保健医さんが喋っている間に、いっ君の表情が少しずつ険しくなっていくのが横で見ていて分かった。

「保健室で出すものには絶対に入ってないから、大丈夫だよ」

最後に保健医さんがそう付け加えると、ようやく彼は顔を上げた。

「それに墓屋君は自販機で買わないんでしょ?
いつも城島君から貰ってるじゃない。グレープジュース」

保健医さんの言葉に、いっ君は少しだけ笑う。

「あいつが休んだら、ここの紅茶以外飲むものなくなりますね」

小声でそう言うと、いっ君はゆっくりと立ち上がった。

彼はまだ寝ていた浦和君を叩き起こすと、チャイムと同時に教室へ戻って行った。

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