続・鉢植右から3番目
白い壁をバックにして立つ渡瀬さんは完璧な迫力と美しさだった。私はそれに負けないように、無意識にエレベーターのドアを握る。
それから、あ、と気がついた。
「すみませんけど、渡瀬さん」
「なあに?」
ちょっと膨れっ面をしていた彼女がまた小首を傾げる。私が横へ追いやったダレ男は物凄く興味なさそうな顔で二人を見ていた。・・・少なくとも、顔はこっちを向いていた。
「奈緒に・・・榊さんに、先に帰ったって伝えてくれます?この後渡瀬さんのお仕事について話するんですよね?」
ああ、そうだったわね~と頷いて、渡瀬さんが微笑んだ。
「仕方ないわねえ、帰るの、許すわ。長引くと本当に風邪を引いてしまうでしょう。そうだわ~、あなたの家にも私の会社からサンプル送るから是非使って頂戴ね~」
「へ?サンプル?・・・あ、ええと。それはどうも」
いきなり言われて何が何だかよく判らなかったけど、とりあえず何かをくれるらしいからお礼を言っておく。
使うというくらいなんだし、彼女の事だから自分で化粧品の会社でも立ちあげたのかなとちょっと考えた。
私はうちのダレ男の背中をぐいーっと押して、エレベーターの中から外へ押し出した。
「おい?」
なんだ?と振り返るヤツに、私は人差し指を突きつける。