続・鉢植右から3番目


「君、最後に挨拶しなきゃなんでしょ?残らなきゃダメ」

「・・・・・・・是非、帰宅したい」

 ダレ男が正直に嫌そうな声をだした。

「だって約束したんでしょ?」

「した覚えはない」

「したわよ~!」

 例によってたらんと、渡瀬さんが割り込んできた。

「漆原君、まさか終わりの挨拶まで逃げるつもりじゃないわよね?」

 ダレ男はうんざりした顔をまたしてみせた。今日は表情をつけることに決めたらしい。だからといって、渡瀬さんには影響ないみたいだけど。

「・・・約束はしてないよな」

「したでしょ」

「してない」

「第一、さっき来たばかりじゃないの」

 私は彼らの問答を聞きながら、とりあえずエレベーターの中で「閉」のボタンをこっそりと押してみる。

 だって、早く一人になりたかったのだ。

 そして混乱した頭を沈め、この変な人たちの情報を消去し、温かいお風呂にゆっくりと浸かって、人間に戻りたい。

 是非とも、早急に。

 こんな格好は他の同級生の誰にも見られたくないのだ。

 だけど、うちの夫である男はたまに、変に敏感だったりする時がある。


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