続・鉢植右から3番目
お鍋をかき混ぜながら、ほー、と息をついた。
知らない間に肩に力を入れていたらしい。腕を軽くまわしてほぐす。
こういう時、喋りの男でなくてよかったなあと思う。嘘をつくのは上手ではない。何度か会話をしていたら簡単にボロを出す自信がある。
別に実家には行かなかったといえばそれで嘘にはならないのだけど・・・でもそれじゃあ何しに朝から出たの、と聞かれると返答に困るし・・・。
うじうじうじ。
真夏なのに熱々のビーフシチューを作りながら、どうやってヤツに質問を飛ばすかを考えていたのだ。
自分でしてみた妄想シュミレーションはこれ。
①ねえ、昨日の私の過去の話、聞いちゃった?――――――カジュアルすぎるか。うーん、もうちょっとシリアスを出すべき?だって不倫だしねえ・・・。決して綺麗に化粧出来ない事柄ですよね~・・・。
ではでは・・・②えーっと、実はね、私、君と会う前に会社の上司と恋愛をしていてね、でもその人は妻帯者でね、・・・・って、箇条書きみたいでヤツは欠伸しそうだ。そんなことされたら凹む。で?とか聞かれたら先を話す気力もなくなりそうだ。
うーん、③机をバン!と叩いて、聞いてくれ!!と叫んでみる、のは、どう――――??
「・・・・・・・違うでしょ」
換気扇の中に頭を突っ込みたくなった。
バカみたいだと自分でも認めよう。
私が汗をダラダラと流しながらそんなことを考えている間に、ビーフシチューの中のジャガイモはすっかり溶けて消えてしまった。
私はお鍋の中を覗き込んで、本日何回目かの重い重いため息をついた。あーあ。