続・鉢植右から3番目
荷物を置いて寝室から出てきたヤツが、都、と後ろから呼んだ。
「へっ!?はいっ!??」
私はびくっと肩を震わせて、急いで振り返る。何、何!?どどどどど、どうしよう、今日実家どうだった、とか聞かれたら―――――――・・・
そう思って瞬間的に緊張すると、ヤツは玄関先を指差して言った。
「合鍵置き場、変えたのか?」
「あ――――――・・・あ、それね」
ほっと息を零して、それから私は情けない顔になって言う。
「今日帰ってきてから世話をしようと思ってたら、手が当たっちゃって落としてしまったの。サルビア、鉢が割れてしまって」
ヤツは微かに頷いた。
「で、鍵は?」
「隣のベゴニアにお引越し。サルビアはまた植えなおすけど、それとはまた別に、新しく食べられるものでもいいかもと思ってるの」
「わかった」
そう言うと、手を洗いに(だと思う)洗面所へ行ってしまった。
・・・気になっただけだったのね、鍵の在り処がね。へいへい。肩をすくめる。とりあえず、実家の話題でなくてよかった。そう思った。
「・・・・シチュー」
机の向こう側に座った夫は、目の前に置かれたお皿の中を見ながら言った。質問ではなく、ただ、呟いたようだった。
ま、気持ちは判る。
今が7月の下旬で、部屋の中も蒸し暑く、目の前に湯気を立てるシチューを用意されたなら、私だってそんな反応だろう。