OCEAN SONG

しばらくして、箱詰めされた
大福を持った彼が現れた。

「お待たせ」

「えっと…。箱詰め、とは
言ってないんだけど。2、3個でいいのに」

「いいって。サービスだよ」

「まあいいや。代金は?」

「代金もいらない」

「え、でも…」

「いいから。持っとけ。大事なお金なんだろ?」

「…」

彼は笑って私の持っていた1000円札を
財布に閉まわせた。

「ありがとう」

「いいって」

「うん…」

「ほら、今日は暑い。熱中症になるから
早く家に帰った方がいい」

「わかった。じゃ、またね」

「ん。じゃあな」

重い扉を開けて、外に出る。

ドアが閉まった瞬間、カラン、と
呼び鈴の音がした。

袋に詰められた大福を
自転車の籠に詰め込み、
私は自転車を走らせた。

ぐんぐんと自転車は
街を突っ切って風を招く。

生暖かい風が、私の肌を刺激する。
< 23 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop