スイート・プロポーズ
 史誓は、自販機のボタンを押す。
 けれど、買った飲み物を取る気配がない。

「あげるよ。じゃ、よろしく」

「え……」

 史誓はニコッと笑い、軽い足取りでその場から立ち去る。言いたい事を言って、スッキリしたみたいだ。

「……あ、紅茶か」

 史誓が残していったのは、冷たいペットボトルの紅茶。お釣りまで残して行っているが、貰ってしまっていいのだろうか?

「……また、悩み事が増えたわ」

 史誓の個人的な頼みだ。引き受ける義務は無いが、悩むには十分すぎる。ペットボトルのフタを開け、喉を潤す。

「…………2年、か」

 部下としてならば、いくらでも応援する。上司が若くして、出世コースに乗るのだ。応援しない理由なんてない。
 けれど、恋人としてはどうだろう? 結婚の約束をしているわけでもないのに、2年も待てる?
 その間、互いに心変わりをしないと言う保証もない。付き合いが長ければ、違う選択肢も出るのだろうが、ふたりの関係は、まだ1年にも満たないのだ。

「あ〜……」

 どうしてこんなにも、悩まなくちゃいけないのだろう?
 もっとシンプルに考えられたらいいのに。考えるのが面倒になってきて、長椅子に横たわっていたら、よく知る人物が現れた。

「何やってんだ、小宮」

「……おはようございます、倉本さん」

 一応、朝の挨拶をしておく。倉本は首を傾げ、円花に話しかける。

「疲れてるなら、有給使えばいいだろ。お前、全然使ってないし」

「倉本さんはよく使いますよね」

 起き上がり、髪が乱れていないか手で確認する。

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