スイート・プロポーズ
「私って、バカだわ……」

「……そう思うなら、あいつに言ってやってくれないか? この話を受けるべきだ、って」

 コーヒーを飲み終わると、ゴミ箱に空き缶を捨てる。

「俺は、君達の恋を応援してる。何故なら、俺にとって優志は、他の誰よりも信頼できる親友だからだ」

 そう語る史誓は、真剣な顔だった。嘘は言っていない、素直な本音。

「だからこそ、俺はあいつを右腕にしたいと思ってる。そのために、この会社に誘ったんだ」

 ポケットから200円を取り出すと、自販機に投入する。
 また、コーヒーでも飲むのだろうか?

「けど、上はあいつの実力を認めたがらない。俺が誘ったから、コネ入社だと言う奴もいる」

「そんなこと……」

「分かってる。ただのこじ付けだ。けど、上の連中は俺がする事を否定して回りたいのさ」

 円花には、よく分からない。上層部の考えなんて、一般社員が知る機会は少ないのだから。

「だからこそ、誰にも文句を言われないような功績が必要なんだ」

「そのために、アメリカへ?」

「あぁ。今後、この会社のブランドを世界へ輸出する。その時、海外市場を理解した者が必要になるからな」

 史誓には、確かなビジョンがある。
 この会社を更に成長させる、明確なビジョンが。
 ただそれには、夏目が必要なのだ。史誓自身が、他の誰よりも信頼している存在が。

「君に頼むのは、卑怯だと理解してる。けど、君以外に背中を押せる人間が、他にいるかな?」

「…………」

 これは、業務命令ではない。専務・御堂 史誓の個人的な頼みだ。
 だから、引き受ける義務はない。

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