スイート・プロポーズ
 こんな自分を、見せるべきじゃない。
 だから、嘘をついた。本当は、眠気なんてまったくないのに。

『部屋の明かりがついているようだが……少し、会えないか?』

「ーーーー!」

 夏目の一言で、円花は素早くカーテンを開けた。見下ろした先には、見覚えのある車と、よく知る人物がいる。

『会えるか?』

「…………はい」

 ここで断れば、それこそ嘘だと言っているようなものだ。
 円花が電話を切るよりも早く、夏目はマンションへ向かって歩き出す。

「どうして急に……」

 電話を切り、円花は夏目が来た理由を考える。
 だが恋人の元へ来るのに、理由なんていらない。
 それを理解しつつも、やはり何か理由があるように感じてしまう。

ーーピーンポーン……。

 夏目の到着を知り、円花は玄関へと向かう。
 結局、理由は本人に聞くしかないのだ。鍵を開ければ、仕事帰りなのだろう。スーツ姿の夏目が、心配そうな表情を浮かべていた。

「あの……中へどうぞ」

 立ち話もなんだし、と中へ招き入れる。夏目は何を言うでもなく、円花の後に続く。

「何か、飲みます?」

「いや、いい」

 と言われたが、少しでも気まずさを避けたくて、円花はキッチンへ向かう。インスタントのコーヒーを準備しながら、夏目の表情が明るくない理由を考える。何かあったのだろうか?

「どうぞ」

「あぁ、ありがとう」

 マグカップを受け取ったが、夏目は飲む気配がない。円花も飲むつもりはなかったので、お互いのマグカップは放置されたまま。

< 278 / 294 >

この作品をシェア

pagetop