スイート・プロポーズ

思い出すのは癪だが、再会した瞬間、やっぱり思い出してしまった。

前々から知ってはいた。

薫が美容師を目指していたということは。

けれど、何も言わず留学することはなかったと思う。

大した期間ではなかったが、仮にも彼女だったのだから。


(ムカついてきたわ)


再会したら殴ろう、そう決めていた。

でも、再会した薫が、当たり前みたいに話しかけてくるから。

根に持っているのは自分だけだと思ったら、虚しくなってしまった。


(ま、連絡するつもりなんてないし)


結婚式の二次会で貰った名刺は、その日の内に円花の部屋で破り捨ててやった。

あのくらいで晴れる恨みではないが、もう8年も前のこと。

時効になるのを待った方が、いいのかもしれない。


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