水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 


「こんにちは。
 春宮さん、氷川さん」

「ごきげんよう、氷室さま」

「いらっしゃい、氷室さん。
 今井、氷室さんのお茶もお願い」


春宮さんがそう言うと、
今井さんは一礼して部屋を出ていく。


「氷室さん、氷雨君は元気してる?」


サナトリウムに姿を見せた私に
彼女が最初に問いかけるのは、氷雨のこと。


何も言えないまま、
氷雨が何か連絡しているかもしれないと
彼女が言葉を続けるのを待っていると、
携帯電話を握りしめた、彼女はメールを表示させながら
私に微笑んだ。



「この間ね、氷雨からメールが来たの。

 氷雨、学校の勉強が大変なの?
 この間の校内テストの成績が下がってたから
 補習だーって。

 氷室さんは大丈夫だったの?」


氷室さんは大丈夫だったの?


問いかける彼女に、
『私も彼が何をしているか知らないのです』っとは
言えるはずもなく、私は氷雨の嘘を知って、
それに寄り添うことしか出来ない。



私が必要とされている役目は、
その嘘に寄り添って、彼女の不安を取り除くことなのだから。


今も携帯を握りしめながら、
無意識に浮かべる、寂しそうな彼女の貌【かお】を見るたびに
キュっと私自身の心が締め付けられる思いがする。



「私はギリギリ大丈夫でした。
 でも氷雨もあと少しだったんですよ。

 補講と言っても、うちの独自の校内実力テストなんです。
 合格点が、90点以上の一問一点。

 五教科五百問。
 氷雨は一科目だけ89点だったんです。

 それでも全教科、赤点で3週間の補講を放課後毎日2時間ずつ受けないと
 次の受験資格がないんです」


さも氷雨が赤点を取ってしまったような言い方をしてしまったけれど、
実際問題、うちの校内実力テストの仕組みはこの通りで。


「氷室さん、浅間にもそのようなテストがあるのですわね。
 私たち聖フローシアだけだと思いましたわ」

そんな風に言葉を続けてくれる、和花さんと言う彼女のお友達。


「聖フローシアにもあるんですね」

「えぇ。

 私たちの場合は85点以上の5教科・500問。
 浅間学院と違うのは、1年生・二年生で赤点を取ってしまったものは、
 三年生になるまで次の受験資格がないことかしら?」

「えぇ?和花ちゃん、そんなテスト本当にあるの?
 私はどうなるの?」

「妃彩ちゃんは、二学期からの在学だから1年の間にあった三回のテストは
 三年生でやるか、学年末の三学期にやるかどちらかだと思いますわ」

「なんか、それはそれでフローシアさんも大変そうだね」


そうやって会話をまとめると、二人は私の方を見て
肩を可愛らしく竦めて【すくめて】微笑んだ。


「じゃ、私は氷雨が次は合格できるようにお祈りしておく。
 氷雨にもメールしておかないと。
 一点って大きいんだね」


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