水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 


そんな風に純粋に言って、
携帯を握りしめて、指先でキーを押し始める春宮さん。


そんな彼女を見て私も慌てて、
携帯を確認してるフリをしながら、
素早く春宮さん側に説明した内容を氷雨へと送信した。



私がメールを打ち終えて暫くすると、
春宮さんもメールが終わったのか、携帯電話をテーブルへと置いた。




「氷室さんは、この後どうされますか?
 私と妃彩ちゃんは、学校の課題をやりたいと思いますの」


そう言って取り出してきたのは、
真っ白い毛糸や、真っ白い布。
そして針と色。


「なんだか凄い課題ですね。
 何を作ってるんですか?」

「今は染め物を勉強しています。

 色紙とかは化学染料が用いられていますが、
 日本には昔から先人の知恵で、素敵な技術があります。

 氷室さんは草木染めはご存知ですか?」

「名前だけは」

「私たちフローシアの生徒は、選択科目になるのですが
 そう言った日本古来の伝統を重んじる科目がありまして、
 妃彩ちゃんと二人、染め物を選択しているんです」

「あぁ、だから布も糸も真っ白いんですね」



そう言いながら、
彼女たちがこれから始める作業が気になっていく私も居る。


理由は何だっていいのかもしれない。


ここ数週間、この場所に通うたびに
私自身も、春宮さんのその笑顔に癒されている自分を感じる。



そして……私にはない、
彼女の持つ力強さに惹かれてる。



和花さんと二人、今井さんに頼んで部屋に持ち込んだ
植物と道具を使いながら、課題だと言う草木染を始める二人。



他愛のない会話を繰り返しながら、
彼女たちは、布に糸を通した針をクシュクシュと縫っては絞って、
何か所も何か所も、繰り返した布を別に用意した鍋の中へと
入れて染め始めた。



鍋の中の液体の色は青色っぽい色。


完成形が見えないまま、
彼女たちを見守っていると、
綺麗に染められた、布と糸が姿を見せた。



「その実は?」



鍋の中に入っていた青色の実を見つめて訊ねる。



「クサギの実です。

 今井さんが用意しておいてくれたので、
 焦らずに学校の課題も出来ました。

 後は上手く出来てるかどうかなんですよね」



彼女はそう言うと、縫い付けていた糸をゆっくりと解いていく。

当初、青い色をしていたものが
二つ目の液体につけて取り出すと、茶色っぽくその姿を変える。

白い部分と茶色の部分とが綺麗な模様となっている布。
< 107 / 140 >

この作品をシェア

pagetop