水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 


「初めまして。
 勇ちゃんから話は聞いていて、会ってみたかったのよ。

 私は鷹宮総合病院で看護師をしている、
 水谷結夏【みずたに ゆか】です」

そう言うとナースさんが、ゆっくりと手を差し出す。
流されるように握手を返す私。


「私の歌声を聴いてくださって有難う。
 勇人の養母【はは】のRiz【リズ】です」

今度は、もう一人の女性がやわらかに自己紹介した。


「リズママとは血は繋がってないんだ。
 生まれて間もない頃から育てては貰ってるけどね。

 リズママ、少し今度のリサイタルの練習に
 この場所に来たんだ」


そう言うと勇人は、
リズさんをパイプオルガンの傍へと誘導していく。


オルガンの傍に立って、
静かに歌声を教会内に響かせる歌姫。


その歌姫の歌詞にならない歌は、
今日も神秘的で幻想的な時間。


15分くらいその声に癒されて、
バイト先へと向かった。




いつものように、レンタルの本屋ビデオの受付・貸出業務や
店内の掃除、在庫のメンテナンス、返却された商品を棚に戻す作業をやり終えると
21時ちょうどに、お疲れ様でしたっと一足先に、バイト先を後にした。


22時までがバイト先だと、時雨たちに伝えているのは
氷雨が何をしたかったか知りたかったから。


あの絡まれた場所の治安がどうとか、
事件がどうとか、あの昼休みに口にしていた言葉も引っかかっていたから。



私一人が動いたところで、何も出来ないのかもしれない。

それでも……氷雨の気持ちを考えると、
時雨や小父さん、小母さんには気が付かれないように
見つけ出したいと思った。






その夜もバイトが終わるとあの時、
氷雨と出逢った通りを忠告を無視して歩きながら
何度もグルグルと周辺をまわる。


繁華街のアーケードを潜りながら、
何人かでたむろっている、学生っぽい人たちを見かけると
なけなしの勇気を奮って声をかける。



そんな繰り返しを続けてた。






「あの、すいません」



コンビニの駐車場に、
バイクをとめてたむろってるグループに声をかけてみる。


「なんだ?お前?」

「あっ、こいつだよ。
 最近、氷雨さんのこと鍵まわってる奴がいるって
 相中【あいちゅう】の佐竹【さたけ】がいってましたよね」



ひそひそとグループのメンバー同士で話し合ってた会話に
【氷雨】の名前を聞きとる。
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