水晶の少年 【第一幕 完結】※続編「SEASON」 

2.車椅子の少女 -氷雨-



「氷雨、何時まで寝てるの?

 時雨なんてもう勉強してるわよ。
 氷雨ももう受験生なんだか、バイトばっかりしてないで
 ちゃんと勉強しなさい」


母さんのよく響く声が、
リビングからここまで響き渡る。




うるせっ。



思わず薄い夏布団を引っ張り上げて、
朝寝をむさぼろうとしたとき、
ノックの後に近づいてくる足跡が一つ。



「氷雨、ほらっ。
 起きろって。

 夏休みだからって、
 お前バイトばっかしてていいのか。

 7月終わってもう、8月だぞ。

 この夏は、泣きついても
 僕の課題、写させないから」



そう言いながら、夏布団をめくりあげたのは
双子の兄、金城時雨(かねしろ しぐれ)。



「別に時雨の手は借りねぇよ。

 お前と違って、
 オレ、医学部目指してるわけじゃないからさ。

 親父と同じ進路に進みたいけど、
 母さん猛反対中で、
 進路のこととなったら口も聞きやしない」




そう言いながら朝から不機嫌に
ベッドを這い出すのは、
今、浅間学院高等部三年生に通う
オレの名は金城氷雨(かねしろ ひさめ)。


今は高校生活最後の夏休みを満喫中。


皆が受験勉強に追われる中、
オレはいつもと変わらない時間を過ごす。


ガキの頃から親父の背中を見て
育ってきたから、
交番のお巡りさんとかになるんだと
ずっと思ってきた。



自分なりの【正義感】を信念に
オレなりにやってきた。


そのやり方が、母さんや兄貴たちが想う
それとは違うけど、
オレは俺なりに必死なんだ。

そう言ったところで、
オレの気持ちなんざ理解するものは居ないし、
理解されたくもねぇ。

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