モノクロ
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「うーん……」
「佐々木さん、お腹痛いのか?」
「へ? あ、いえ、そうじゃなくて」
定時が過ぎ、エンジェルランドのチケットと携帯とを交互に見比べながら唸っていた私を見て、佐山さんがそんなことを訊ねてきた。
エンジェルランドのチケットはショウが私に泣きついてきた次の日に、ショウが持ってきたものだ。
あの後ランランと無事に仲直りしたらしく、ショウにはいつもの笑顔が戻っていた。
それでもやっぱり申し訳なさそうな表情は浮かべていたけど、「今は仕事を精一杯頑張る」と言ってくれた。
私はチケットと携帯をデスクの上に置き、佐山さんの方を向いた。
「佐山さんって、エンジェルランドに興味ってないですよね? 梢ちゃんにもまだちょっと早いでしょうし」
「エンジェルランド? あの馬の妖精がいる世界か?」
「そうですそうです」
「梢は今はピッピーニャンダンスに夢中だし、俺も特に興味を持ったことはないけど、それがどうしたんだ?」
「ショ……と、友達がチケット探してて。来週末のチケットはあるんですけど、都合が悪くなったみたいで来月分で探して欲しいらしくて。なかなか手に入らないから、手伝ってるんですよー」
チケットを探し始めて3日目。
仕事の合間にネットの掲示板を見たり、終業後には旅行会社に通ったりもしているんだけど、全く見つかる気配はなし。
今日、そして週末も旅行会社を回る予定だ。
「佐々木さん、ほんとお人好しだよな」
「え? いえ、そんなこと」
「あるって。いつかも何とかっていうチケット、友達のために探してただろ?」
「あ~、声優の高ノ宮流星のイベントですね! 友達がものすごく好きなのにチケット取れなかったって泣いてたから、どうにかしなきゃって思ったんですもん。掲示板とか探しまくって何とか譲ってもらえて、本当に嬉しかったんですよね~」
「それそれ。見返りもなしに、人のために動いて自分のことのように喜ぶところがお人好しなんだよな」
友達が喜ぶことをして何で“お人好し”になってしまうのか私にはよくわからなかった。
だって、友達のために動くのは当然のことじゃない?
私は「うーん」と首を傾げると、18時半を指している時計が目に入ってきた。
「って、あっ! 私、そろそろ出ます! チケットカウンター、19時までなんです!」
「あぁ。頑張れ。俺も知り合いに当たってみるよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
「いや。頑張れ」
「はい!」
私はバタバタと外に出る用意をして、バッグを手に佐山さんにぺこっとお辞儀をして、オフィスを出た。