モノクロ
「……ねぇ、その旅行の日って、その日じゃないとダメなの?」
「いや、土日ならいつでも……」
「そっか。わかった。じゃあ、来週末の旅行はなかったことにして。ショウはエンジェルランドのことは忘れて仕事に集中してて」
「……え?」
ショウは私の言葉にきょとんとしている。
その表情は私に裏切られたというかのような哀しそうなものだった。
でも、私はショウにそんな顔をさせるために、そんな言葉を言ったわけじゃなかった。
「探してみるから。来月辺りでツアーパックがないかどうか」
「えっ?」
「だから、ショウは仕事してよ。これ、デザイン担当命令だから!」
「いや、でも今から来月って無理……」
「それを何とかするって言ってるでしょ!? 絶対にチケットは見つける。信じてよ!」
「は、ハイ。」
私の勢いにのまれたのか、ショウが大人しく頷いた。
私もうん、と頷く。
「よろしい! だからさ、ちゃんとランランと仲直りしなよ? ランランには別の日にしようって言うなりしてさ。絶対に何とかする」
「……うん。マジでありがとう。アキっ」
「ひゃっ!」
感極まったらしいショウが私に抱きついてきた。
ショウのこの行動に慣れてるとは言え、会社の人の目がある場所で抱きつかれるのは困る!と私はショウの体をぐいっと押し返す。
「ショウっ、その誰にでも抱きつく癖、直してよ! いつもランランにも呆れられてるでしょ!? いつかのイベントでも知らないオジサンに抱きついて、驚かれてたし!」
「え~だって~。俺、人肌好きだし、嬉しかったし、アキ、いい感じに肉付き良くて超やわらけぇんだもん……」
「ショウにはランランがいるじゃん! っていうか、“肉付き良い”って失礼じゃない!? 確かにランランよりもお肉は蓄えてるけど!」
「別にアキが太ってるって言ってるわけじゃねぇじゃん~。それに、ランは特別だし! だってランの素肌ってさぁ」
「あーもう、それもいいから! あんまり変なこと言ってると、またランランに怒られるよっ!?」
「う。……黙る」
「よし。じゃ、ほら、早く帰ってあげなよ! ランランの誕生日なんだから、一緒に過ごしてあげなきゃでしょ? きっとランランも待ってるよ?」
「! 帰る! アキ、ありがとなっ!」
私が返事をする前にショウはガバッと立ち上がり、ブンブンと勢いよく手を振りながら私の前から去っていった。
そんなショウの背中を見送りながら、ちゃんと仲直りできますように、と祈りながら、すっかり暗くなった濃紺色の空にぽっかりと浮かぶ月を見上げた。
この時、私の頭の中はショウや仕事のことでいっぱいになってしまっていて、先輩のことはすっかり忘れてしまっていた。