モノクロ
エレベーターのドアが閉まり、小さな箱の中がしんと静まりかえる。
その静寂を破ったのは、先輩の声。
「最後?」
「あ、はい」
「まーた、一人で残業してんのか? 相変わらず仕方のないやつだなー」
「う……、いや、まぁ」
眉をひそめた先輩に私はえへら笑いを向ける。
本当は夕方外に出て抜けてる分遅くなっているだけなんだけど、先輩に余計な心配をさせたくなくて、それは言わなかった。
「先輩こそ遅いんですね」
「あー、うん。ちょっと呼び出されてさ」
「え? そんなことあるんですか?」
「……今日は特別、かな」
「へぇ~。そうなんですね」
こんな時間まで呼び出されて大変そうなのに、どこか先輩の様子は嬉しそうに見えて。
不思議に思ったけど、それ以上は特に何も聞かなかった。
エレベーターが1階に到着し、先輩に続いて私もエレベーターを降りる。
そのまま先輩は駐車場に続く通用口に行くと思っていたのに、突然ぴたりと足を止めた。
そして、私の方に振り返る。
「先輩? どうかしました? 忘れ物でもしました?」
「いや。……さきこってさ」
「へ?」
先輩は私の顔をじっと見下ろしてくる。
一部の電気しかついていない薄暗いその空間で見る先輩は何だかいつもと雰囲気が違って見えて、私の心臓がどきんと音をたてた。
数少ない灯りを反射して先輩の瞳がきらりと光り、私はそれに囚われてしまう。