モノクロ
仕事をキリのいいところで切り上げ、オフィスの入り口にあるカードリーダーにカードキーをかざしてオフィスと廊下の電気を落とし、鍵を閉めた。
しんと静まり返った薄暗い廊下をエレベーターに向かって、私は携帯を覗きながら歩き出す。
待ち受け画面の光が私の顔に当たっているだろうから、傍から見たら私の顔だけが浮かび上がっていてちょっと怖いことになっているだろう。
「やっぱりダメかぁ……」
はぁ、と私のついたため息が廊下内に響く。
エンジェルランドのツアーパックに関する新着情報はやっぱりない。
いくつかの旅行代理店サイトに登録してキャンセル待ちもしているけど、全く連絡が入る気配もないのだ。
他にもチケットセンターのサイトなども一通り見てみるけど、望んでいるチケットは1件も出ていない。
あんなに大口叩いたというのに絶望的だ、と私は再びため息をつきながら、エレベーターの下りボタンをポチリと押した。
エレベーターが上がってくる階数表示を見る余裕もなく携帯を覗き込んでいる間に、いつの間にかエレベーターが到着し、そのドアが開く。
私はその箱に乗り込み1階ボタンを押して、再び携帯に目線を落とす。
このままじゃどうにもこうにも、らちが明かない。
来月だけじゃなくて再来月以降にも範囲を広げて探してみよう。
そう思い、下降するエレベーターの壁に寄りかかって画面の日付カレンダーを選択していた時、エレベーターが速度を落とした。
もう1階に着いたのだろうか、と携帯から目線を上げた時、エレベーターのドアが開いて、目の前にぬっと影が見えて私は思わず声を上げてしまう。
「ぎゃっ!?」
「わ! って、あれ? さきこじゃん」
「せ、先輩!?」
「つーか、驚きすぎじゃね? くくっ」
「いや、だって、まさか人がいるなんて思わなくて……っ」
エレベーターに入ってきたのは紀村先輩だった。
その向こうの薄暗い廊下の壁に見えたのは“4”という数字で、そこが4階だということを示す。
廊下が暗いということは先輩がラストなのだろう。
「7階までエレベーター昇ったから誰かいるのかと思ったら、さきこだったんだな」
「あ、はいっ」
先輩との思わぬ遭遇に、私の心臓の鼓動が速度をあげる。
疲れと絶望感からぼんやりしていたけど、先輩の登場に一気に目が覚めたような気がした。