殉愛・アンビバレンス【もう一つの二重人格三重唱】
 翔もまた被害者だったのではないか?
偶然の悪戯がもたらした運命の。

摩耶はただ翔を信じ愛してきた。決して財産目当てなどではなかった。


翔の分まで生きるために、そして翼の分まで勉強するために。
子供が産まれたらまた学生に戻ると摩耶は言った。
それが二人の供養になると信じていたのだ。


摩耶もまた陽子に負けない位翔を愛していた。

摩耶は翔と暮らし始めた事件のあった家で暮らすことが一番の供養になることを感じていた。

陽子は摩耶の決断に意を唱え反対した。




 いくら翔と翼の供養のためだと言っても、日高家は殺人事件の現場なのだ。

それも翔の愛する母を弟である翼が殺し……

その翼を兄である翔が殺した。


 そして……

香に殺された薫が埋められ、孝を狂わせた庭。

優しいかった孝に狂気を植え付けた庭。

庭の片隅で愛する薫を思い、愛して行かなければならない香を思う。

その過酷な運命を何度も呪い、睡眠薬強姦魔へと導いた庭。

そして何より愛する夫が妄想で弟を殺し……

見つけ出した遺体を埋めた庭。

自ら選んだ南天が暴いてしまった真実。

それと向き合わなければならない現実。

摩耶に耐えることが出来るのだろうか?
ここで悪夢と戦いながら本当に暮らしていけるのか?

陽子は摩耶が心配だった。
そして初めて摩耶を愛しいと思った。




 産まれて来る子供のために陽子が出来ること。

自分の職場である保育園で預かること。

陽子は摩耶をサポートしたいと考えていた。

過酷な運命を自分と分かち合うことが出来たなら、少しは支えられるかもしれない。

それが自分が死に追いやった翔への供養になるのかもしれない。

翔の体から翼を呼び覚ましたのは確かに自分なのだから。

そう思った時陽子は、この家に住むことを考え始めていた。

翼の運命を変えた、過去と戦うために。




 翔から優しさを奪った現実と戦うために。

そして産まれて来る、二人の子供のために。


そう思った時、答えは決まった。

やはり自分もこの家に住み、この家で生活して行こうと。

二人で互いを支え合う。
出来るか出来ないか解らない。
それでも遣ってみる価値はあると思った。


でも恐ろしい……
怖くて仕方ない。
それでも立ち上がらなければいけない。

二人は同士になるべきなのだと思った。

それが偽装双子として運命づけられた、翼と翔の魂を癒せる一番の方法ではないのだろうか?







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