どきっと した。

その瞳に在るのは、
深い、底無しの――。

――闇。

「……別に。そんなんじゃない。」

抑揚の無い、冷たい声。

曽根倉君にしか向けられていなかった その声が、今は私の為だけに降り注ぐ。

椎名君は再び空を見上げ、ぽつりと、言葉を続けた。

「……曽根倉に、決勝迄、出なくて良いと言われている。」

「……え?それって どうゆう……。」

更に詮索しようと した、その時。

彼は踵を返し、屋上から出て行こうと した。

「え、待って!」

私の頼みも、彼は無視。

「なっ、名前は!?下の名前は、何て言うの!?」

咄嗟に そんな事を叫んでしまう。

すると彼は、ぴたりと足を止め。

振り返らずに、答えた。















「……翔織(としき)。」















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