溺愛トレード
「でもね、プンちゃん」
「だから、プンちゃんは嫌」
実乃璃はその懇願を、見事なまでにスルーした。
「プンちゃんと昔よく表参道でお買い物したじゃない?」
「したけど、プンちゃんは酷くない?」
「そのとき、プンちゃん私に言ったでしょう。『本当に欲しいものを一つだけ選んで買ってごらん』って」
ええ、言ったことがございますとも。
そしたら、高級ブランドの店員さんに「このKYS(K空気Y読めないS庶民)め」ごとく睨まれたの覚えてる。
「私、悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで悩んで、たった一つのバーキンを選んだわ」
当たり前だ。一つ八十万するバーキンを七つ並べて「毎日、日替わりで持っても一週間分しかないわね」とぼやいた実乃璃は、買い物の楽しさを知らない可哀想な女に見えた。
欲しいものを悩んで悩んで一つ選んで買うのが楽しいし、悩んで悩んで買ったものは大切にできる、自分の宝物になると思ってる。
実乃璃にも、そのことを教えてあげたかった。
「でもね、プンちゃん! 私は選ぶのが下手くそなのよ。どうして、あの隣に置いてあったピンクのバーキンを買わなかったんだろう、ってその日の夜は悔しくて中々寝付けなかった」