溺愛トレード
「ああ、待ってください」
瀧澤さんは絨毯が敷かれた階段を上がり、広大な庭が見渡せる部屋に入った。
「見てくれ、今朝アン・カイエの本社から届いた新商品だ。まだ日本では発売されていないものばかり」
瀧澤さんが梱包された木箱をといて、中からアン・カイエの文具を一つ一つ取り出していく。
この人は、毎日私と一緒に遊んでばかりいるようにみえて、実はちゃんと仕事のことも考えていたりする。
「うわ! このマスキングテープ見たことない!」
優しいベージュに白い花の模様。ラズベリーピンクのものも新しい!
「それに、このブックマークはフランス支社のノベルティであっという間になくなったやつですよね? うちの支社でも誰も持ってる人がいないんですよ!」
「そうだろう? これだけ集めるのに苦労したよ」
瀧澤さんは手品師みたいに次々と鳩を飛ばしてくるから、私はいちいち興奮してしまって、テーブルに並んだ宝の山を前に自制心がきかなくなる。
うちの会社に就職しても、アン・カイエの物はやっぱり庶民には高級品で、いつも手に触れて見てはいるけど、実際に使っているのはペンケースと、ボーナスで買った万年筆、それに手帳の三つだけ。
一つ五千円もするメモ帳に「サインの練習するわ」と意味不明なミミズ文字を一心不乱に書いては破り捨てていた実乃璃には、この気持ちはわからないだろう。