溺愛トレード
瀧澤さんは、「ライバルは……乃亜? なおさら手放せない。これからも、まだまだ一番近くに置いて観察する必要があるな」と深く納得されたようだ。
「ちょっと! 徹平なに言い出すの?」と小声で悪態をつくと、徹平は「だって、本当にその通りじゃん」と開き直ってビールをあおる。
「なおちゃん、俺ビールおかわり!」
「オーナー、僕もお願いします」
なおちゃんは「キャーっ! 選べなぁい」と両頬を真っ赤にして割烹着の裾をにぎにぎとしていた。
冗談じゃない!
「なおちゃん、私を一番にして」
空になったジョッキを、どんと置くとなおちゃんの声が男になって「てめぇ、頭にのんじゃねーよ」と太い声で言い返してきた。
「いいですか? とにかく、実乃璃という存在は世界トップクラスのトラブルメーカーなんですよ。私は、ただ利用されてるだけです!
私の長年の勘で、実乃璃は徹平や私より瀧澤さんを好きですから。
でもね、こんなことを今こんな所で……」
なおちゃんがカウンターの奥から「こんな所って何よーっ! キィッ!」と叫んだ。
「うっさい! なおちゃんは黙れ!
三人で実乃璃の考えていることを想像してみても、ぜーったいに答えは出ません。
だから、まず瀧澤さんはそう、はやまらずに私が実乃璃に手紙を渡しますから待っていてください。
そして、申し訳ないんですけど、私はやっぱり徹平がいいです。徹平といると安心するし、徹平といると落ち着く。この関係は壊したくない」