溺愛トレード

 ねえ、徹平もそうでしょ? と目配せすると、案の定徹平は、うんうんうん、と首をかくかくさせて頷いた。


「乃亜…………ごめん、俺まで実乃璃ちゃんにペース崩されてた」


「ううん、いいよ。実乃璃が悪いんだし……」


 よかった。テーブルの下で、こっそりと徹平の手を握りしめる。

 だけど、それを引き裂くように瀧澤さんに抱き寄せられる。



「トレビアァン! やっぱり、乃亜は素晴らしい。僕は結婚前に君に出会えてよかった」


 トレビアン出ました? 御曹司め……外国かぶれしたリアクションしやがって、多分、私が言いたいことの半分も理解してないはずだ。


「もう、瀧澤さん、抱きつかないでよっ!」

「ずっと、抱きしめてたい。僕は君に夢中だから……」


「夢中になるのは実乃璃にしてくださいっ!」


「キィッ!!! 王子に何してんのよ!!!」


「ギャァ! なおちゃん、包丁はしまってぇ!!!」


「なおちゃん、冷静に。はい、吸ってぇ、吐いてぇ……はいはい上手、上手」



 平穏な日々は、まだ遥か彼方先にあるそうだ。


< 82 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop