合縁奇縁~去る者は追わず来る者は拒まず


やっぱり今日は飲んでストレスを発散させるとしましょうか!


暖簾をくぐり、引戸を開けた。

「らっしゃい! お、春ちゃん」

マサさんの威勢の良い呼び声に迎えられ、わたしはいつもの指定席へと腰を下ろした。

「いつものでいいかい?」

「うん、お願い」

「そういやぁ、こないだは大丈夫だったかい?

あの若い兄ちゃんに送らせたんだが……」

「えっ? 

あぁ……、あの日はご心配おかけしました。

みんなに迷惑かけちゃって、いい歳して面目ないです」

わたしはカウンター越しにマサさんに頭を垂れた。

「人生、山有り他に有りだぜ」

「生憎まだ山は経験してないけどね」

「そうかい?

じゃ、これからが楽しみってことだな」

「マサさんてば、オプティミストだなぁ」

「なんだい? そのオプなんとかってぇのは」

「楽天家、ってことですよ」

「そうだな、そう言われりゃそうかもしれねぇな。

俺はお気楽な人生歩んでっからなぁ~」

そう言って笑うマサさんが、何だかとっても頼もしく見えた。

その言葉を鵜呑みにした訳じゃない。

この店を切り盛りしてる彼だもの、楽しいことばっかりじゃなかった筈だ。

「わたしもそんな風に余裕を持てたらなぁ」

「何言ってんだい、春ちゃんまだ若いじゃねぇか。まだまだ未経験のことだらけだろ。

余裕なんて俺の歳になったってあるもんか。

ちょっくら賢くはなるけどなぁ…

と、らっしゃい!」

わたしと話してはいても、店の様子に気を配ることも忘れない。

マサさんの声に店の入口に目をやると……

そこには、山城の姿があった。
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