合縁奇縁~去る者は追わず来る者は拒まず
運動でストレス発散が無理となると、お酒の力に頼るしかない?
飲むとカロリー摂取量が増えるんだよね、できれば避けたかったけど。
受付に水木君の姿はなくホッとしたのも束の間、ジムの外へ出ると、そこには山城一騎がいた。
「なんであんたがいるのっ!」
「なんでって、春さんのストレス発散に付き合おうと思って」
山城一騎は真っ直ぐにわたしの顔を見てそう言った。
「あんたがいると余計にストレスなのっ」
「えぇ~、何でですか?」
つい本音を吐いて後悔した。
あんたに抱かれた夜が忘れられなくて眠れない、なんて、口が裂けても言える筈がない。
「うるさい! 構わないでっ!」
わたしは山城を押しのけ歩き出した。
真っ直ぐ前を向いて、後ろを振り返らずに。
何処へ行く当てもないわたしは真っ直ぐに家路を目指す。
駅の階段を駆け上がり、滑り込んできた電車に飛び乗った。
車窓から外を見ても追って来る人影はない。
どうやら山城はあっさり諦めてくれたようだ。
若者相手に大人気ない、と自分でも思ったけれど。
軽く受け流して、無視すれば良いものを、いちいち動揺して、心乱されるなんてわたしらしくもない。
でもね、どうにもしようがないのが現実。
わたしは一人、小さな溜息をついた。
最寄り駅に到着するやいなや、わたしは気を取り直し、割烹「政」を目指して歩き出した。