Freestyle
「もー柚はすぐカッとなるんだから!」

「だっていちいち立ち止まってたら全然進めないんだもん!可愛いから沙良ばっかり誘われるし…」

「あんたも黙ってたらかわいいんだから、もっと自信持ちなさいよー」

「……自分の可愛さ否定しないとこが沙良のいいとこでもあるけどさっ(笑)」

「でも今日も見つからなかったね~」

「うん。
この学校は誰も音楽しないのかーっ!」

柚はいつものように、階段の下に向かって雄叫びをあげた。
西階段の踊り場は、柚と沙良の溜まり場で、毎日暇があればそこに来ている。
食堂じゃお金使うし、広場じゃ気を使うし。結局2人は2人だけで居る事が一番楽だった。

「今日さ、あたし授業遅いから先に帰っててね、柚。」

「わかったーシャワー先使ってるね!」

サークルの話から話題が二個も三個も
外れた会話をしていた2人は、
階段の下からの足音に気づかなかった。


「沙良ちゃん?」

「えっ?」

階段の途中に、男が2人立っていた。
背が高くて、今時の若者っぽい感じの方が、沙良に向かって笑顔を向けていた。
もう一人の方は、顔を逸らしてつまらなそうに、ただ立っている。


「えっと…誰ですか?」

「えっ沙良の知らない人?!何の用ですか?!」

「ちょっとちょっと!急に敵対心向け過ぎだよ!(笑)俺、山垣晃っていうんだけど……そんな睨まないでよ、ちょっとこわいよ?(笑)」

柚は力一杯、山垣晃(やまがきあきら)と名乗る男の方を睨んだ。
沙良は高校の頃から、男がすぐに寄って来る、変なナンパが多かった。
その頃から柚は、沙良に話しかけてくる知らない男を自然と睨んでしまう癖がついていた。


「なんで沙良の名前知ってるの?!」

「いやぁさっき、サークル募集の看板の所で何か騒いでたよね?俺ら、近くに居たんだよ。」

「あっ…そうなんですか…」

「派手に声張ってたねー!えっと…」

「柚…でしょ?」

もう一人の方の男が柚の名前を名乗った。

「柚。さっき、そっちの子が止める時に言ってたよ。」

その人は山垣晃の隣で微かに微笑んだ。
少し背が小さくて、でも柚より大きくて。いかにも、頭がいいです!みたいな雰囲気だった。

「蒼すげーな、覚えてたんだ!(笑)」

「普通、啖呵きってる方覚えるだろ!」

「あっ、こいつは榛名蒼。ちょっと無愛想だけど、悪い奴じゃないから(笑)」


さっきから、すごく楽しそうな山垣晃と、殆ど笑わない榛名蒼(はるなあおい)に圧倒されて、途中から柚と沙良は何も喋れなかった。

ただ柚は、沙良にしか興味がないと思っていた男達に、名前を覚えてもらっていた事が、少し恥ずかしかった。



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