真夜中に口笛が聞こえる
◇第四章 ゴミ置き場
 信一郎が会社への出勤の為に家を出ていき、その二十分後に美佳が登校するために出発する。

 これからも続くであろう、新しい家での朝のサイクルが始まった。

 美咲は若草色のエプロンを身に着け、腰紐をしゅっと結ぶ。

 慣れないキッチンにも負けず、手早く家族の朝食を作ると、二人を無事に送り出した。

 心の中で、やれやれ、と思った。作ったのは、たかだかベーコンエッグにトーストである。それでも食卓の残骸に目を向けると、もう一度、やれやれ、と呟かざるをえない。

 家の中では、未だに段ボール箱が床のかなりの面積を占領していた。
 これらを、全て開梱していかなければならない。この生活に慣れてしまえば、段ボールに囲まれた窮屈な生活が当たり前になってしまう。

 しかし、それだけは生理的に受け付けなかった。信一郎には可能でも、美咲にそんな生活は不可能だ。

 美咲は腕捲りをして、要領よく朝食の片付けを終えると、洗濯機に洗濯物を放り込んだ。

 キッチンに戻ってきて、ゴミ箱の位置を決める。

 そこでふと、思い出したことがあった。

 今日はゴミ収集車の巡回ルートの立ち会いの日だった。
 信一郎が役所に掛け合った結果、十時頃に収集車が確認のために来ることになっていた。

 美咲の役割は、役所の人間にその場所を指定することである。

 今日は場所の確認だけで、ゴミを持って行ってくれる訳ではなかった。

 しかし、これからの生活を考えれば、近くにゴミを捨てる場所が出来なければ、話にもならない。

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