真夜中に口笛が聞こえる
 ──あら、もう十時ね。

 朝の時間が過ぎるのは、とても早い。

 何かをやり遂げた訳でもなく、梱包テープを剥がす手をとめて、美咲は洗面所へと向かう。
 手を洗い、鏡で自分の顔を写すと、玄関へ走った。

 サンダルを履き、外に出る。急いで見覚えのある一画へ向かう。

 まだ、収集車は来ていなかった。美咲は小走りをやめ、ゆっくりと歩いた。



 そんな美咲の様子を、植物の隙間から、つぶさに見ている男がいた。

 男は息を殺して、隠れている。

 白河であった。

 ただ黙って、青臭い葉を嗅ぎ、自分の家の敷地内から、外の様子をじっと伺っている。



 美咲は気付かずに、ゴミ置き場の予定地で、エプロンで手を拭きながら待っていた。

 やることが多い美咲にとって、この時間のロスは大きい。家族のいないうちに家の中を片付けなければ、また、散らかってしまうのは目に見えている。


『まだかしら。お役所っていつもこうなのかしらね』

 美咲はそこからやって来るであろうという道の辺りを、目を凝らし続けた。

『速く来てよ』と念じている。

 エプロンで拭った手は、明らかに乾いていた。


 それから十五分後、ようやく収集車がやって来た。
 重そうな車体の走行音は、住宅地の静寂を掻き消した。
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